2017年 02月 10日
絆~走れ奇跡の子馬~ |
久しぶりに新刊を上梓する。
2月24日発売の『絆~走れ奇跡の子馬~』(集英社)である。
舞台は福島県の海沿いにある南相馬。東日本大震災の津波に呑まれたサラブレッド生産牧場で奇跡的に生き残った牝馬が子馬を産む。
リヤンドノール(北の絆)と名づけられたその子馬は、放射能汚染の風評被害などと戦いながら競走馬となり、日本ダービーを目指す。
――といったストーリーの小説である。
NHK総合テレビでドラマ化され、3月23日と24日の午後7時30分から73分の前後半で放送される。役所広司、新垣結衣、岡田将生、勝地涼 、小林薫、田中裕子ほか(敬称略)という豪華キャストだ。
本書とドラマとでは、ストーリーや登場人物など、変わっているところがあることをお断りしておく。
ドラマの制作スタッフには「『絆』にこめた思いさえ共有してもらえれば、ストーリーなどをどう変えてもらっても構いません」と早い時期に伝えておいた。
震災の翌月あたりから、被災地、被災者のほか「被災馬」という言葉を聞くようになった。
被災馬は福島県の浜通りに多くいた。世界最大級の馬の祭「相馬野馬追」に出る馬たちが、その地で飼育されているからだ。それらの9割以上が元競走馬であることを知り、競馬の原稿を20年以上書いてきた者の責務として、被災馬取材をするようになった。
その過程で野馬追を取材し、津波で亡くなった蒔田匠馬(まきた・しょうま)君という20歳の騎馬武者の存在を知った。
父の蒔田保夫さんの「短い生涯だったが、蒔田匠馬という若者が確かにいたという証を残したい」という言葉が響いた。
取材を繰り返すうちに蒔田さんと親しくなり、毎年野馬追取材のときお宅に泊めてもらうようになった。
匠馬君と、被災した彼の故郷、相馬野馬追にかける男たちの思いと、競馬のダイナミズムをからめた再生の物語を、一頭のサラブレッドを通じて描きたい――と思ったことが、この作品を書く動機となった。
初出は競馬ポータルサイト「netkeiba.com」で、震災の翌年、2012年の初夏から暮れまで「絆~ある人馬の物語~」というタイトルで連載した。
作中で主人公の馬の名は「キズナ」だったのだが、連載中に実馬のキズナがデビューし、翌年のダービー馬となるなど華々しい活躍をしたので、混乱しないよう、馬名を前述のリヤンドノールに変えた。
まずドラマ化が決まり、それから単行本化が決まった。
ネットで初出の「絆~ある人馬の物語~」を読んだ浅野敦也プロデューサーがドラマ化のオファーのメールをくれたのは、2015年の7月、野馬追取材のため私が蒔田さんのお宅にいたときのことだった。すぐに追伸が来た。浅野さんも福島出身で、いつか震災に向き合った作品をつくりたいと思っていたのだという。
後日、効果を考えて野馬追の日にメールしたのか訊いてみたら、中通りの福島市で生まれた浅野さんは野馬追の日取りまでは知らず、本当の偶然だった。
単行本化にあたり、初出原稿を全面的に改稿し、原稿用紙200枚ほど加筆した。
2014年11月の『虹の断片』以来の単行本だから、2年3カ月ぶりの新刊になる。
代表作にしたい。そうなってもらわないと困る、という気持ちで書いた。
装画は馬の画家・久保田政子さんの「白馬星雲」。帯の推薦文は伊集院静さんにいただいた。
by akihiro_shimada
| 2017-02-10 17:30
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